PROJECT
STORY
01

チャレンジングな試みを
支え
走り続けた5年間
『バイオガス発電所新設プロジェクト』

NEW BIOGAS
POWER PLANT PROJECT

PROFILE

Yusuke Sato佐藤 勇介

渉外課課長 2006年入行

PROFILE

Hironobu Goto後藤 博信

東北おひさま発電株式会社 代表取締役

地域エネルギーを活かす新たな活路
飯豊町と荘内銀行との強固な連携を足がかりに

三大ブランド和牛の一つと称される米沢牛。そのメッカである山形県置賜地方で、国内でも他に類を見ない「バイオガス発電」※に取り組む企業がある。長井市にある「東北おひさま発電株式会社」だ。自然と共生する循環型社会を拓く。そんなビジョンを掲げ、自立した地域づくりに寄与する。再生エネルギーを活用した発電所を展開し、“地域の・地域による・地域のためのエネルギー”を軸とした開発を推進する。

飯豊町に「ながめやまバイオガス発電所」が完成し、本格稼働が始まったのは2020年9月のこと。畜舎からパイプラインで集めた産業廃棄物である牛のフン尿を資源として活用し、臭いを軽減しながらクリーンなエネルギーに変える。発電に使うガスとして発酵させた残りかすは、牧草の肥料に利用するなどエネルギーの循環を徹底させる。北海道の乳牛では事例の多いバイオガス発電を、肥育牛によって行うのは、日本初の取り組みだという。

渉外担当の佐藤勇介は、同発電所の構想段階から参画。前例を見ないプロジェクトに奔走し、時に困難に遭遇しながらも、完成へ向けて走り続けた——。

米沢牛の産地として知られる飯豊町は『SDGs未来都市』に加盟するが、フンの処理が地域の長年の課題だった。同町出身で、飯豊町副町長を務めた経歴を持つ後藤博信社長は、環境課題を解決しながらエネルギー回収できる仕組みづくりを描く。後藤社長が相談先として選んだのは、荘内銀行だった。

「ながめやまバイオガス発電所」の完成から遡ること5年。最初に相談を受けた佐藤は正直、困惑を隠せなかったと話す。「まず、本当にこの施設が飯豊町で実現できるのか、牛フンからメタン菌を発酵させて発電ができるのか、継続して売電できるのか、とにかく分からないことばかりでした。私自身が勉強不足だったこともありますが、ほとんど想像がつかなかったことを覚えています」。

事業の可能性を見極めるため、佐藤は後藤社長や地域の畜産農家とともにバイオガスプラントの先進地である北海道・帯広の視察に同行。自身も多くの知識を蓄積しながら、町内での新たな事業展開に向け着実に歩を進めていった。

後藤社長も迅速に動く。視察によって得られた知見を活かし、例えばバイオガス発電所と連動したフン尿処理のため、従来の飼育方法を変更した。排出したフンを牛が踏み固めてしまうと発酵が進み活用できなくなる。そのため牛を横一列に並ばせ、背後にトイレのようなスペースを設けてまとめて運び出す手法を導入した。

さらに追い風が吹く。2017年度「飯豊町バイオマス産業都市構想」策定を受け、荘内銀行は飯豊町と強固に連携。プロジェクトの推進をより一層力強く推し進める土台が築かれた。2017年10月には、内閣府をはじめ関係7府省が共同で推進するバイオマス産業都市に認定された。地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸に、環境にやさしく災害に強い地域を目指すためのプロジェクトに拍車がかかった。

“できない理由”を探すのではなく、
“どうしたらできるか”を考える姿勢が重要

発電所の整備は着々と進行していった。当時の様子を後藤社長はこう話す。

「肉牛でのバイオガス発電の試みは非常にチャレンジングな試みでした。帯広で乳牛の畜産現場を視察して学びましたが、乳牛と肉牛とでは牛の育て方が違いますし、飯豊町の牛舎でやっているような肉牛の肥育の事例はどこにもありませんでしたから、畜産農家のみなさんはかなり心配されたのではないでしょうか。加えて、私どもには実績がない。あるのは課題解決への情熱とビジョンだけ。荘内銀行から事業性融資をしていただくにあたり、同じ目線で向き合ってくれたから今がある。プラントに何度も足を運んでいただき、事業の収益性やリスクを最大限に評価いただいた結果だと捉えています」。

佐藤もまた、後藤社長と幾度も打ち合わせを重ねることで手応えを感じ始めていた。融資には担保ありきという常識に縛られていては、いずれ未来にコミットしていくことは難しい時代になっていくだろうという予感も覚えていた。

「道のりは決して簡単ではないだろうと腹をくくってはいましたが、なかなかでした(苦笑)。施工業者の方々も初めてのことが多く、計画修正もたびたびありました。でも、その計画変更一つひとつに後藤社長の地域課題を解決しようという想いや、そこに住んでおられる方々の想いが詰まっているんだと考えると、こちらも気を抜いてはいられません。後藤社長はじめ多くの地域住民の方々の想いの実現に寄与できるのは、地方銀行ならではの醍醐味。その最前線に5年もの長期にわたり関わり、お客さまと緊密なコミュニケーションをとらせていただけたことは本当に貴重な経験でしたし、これからの地方銀行のあり方や、未来に社会的価値を生み出す事業とは一体どんなものなのだろうかということを考える良い機会になりました。単に融資を実行するだけじゃない、融資先企業と一体になって、同じ目線を共有しながら、主体的な意識を持ってやっていくことが、今後はより重要になっていくと思っています」。

発電所の稼働以来、牛たちはすこぶる健康で、ほぼ想定通りの発電量で推移している。また、「SDGs」や「再生可能エネルギー」といった現代のキーワードを、単なる言葉としてではなく、身近な現実として実感できる場として、地域の小中学生たちの見学も積極的に受け入れていると後藤社長は話す。

「ながめやまバイオガス発電所」が軌道に乗り始めた今、佐藤の頭のなかには一つのイメージが像を結んでいる。後藤社長が地域の課題解決のため住民の声に真摯に耳を傾けたように、お客さまの夢の実現に向かって、“できない理由”を探すのではなく、“どうしたらできるか”を考える銀行員の姿だ。

「地域社会から信頼され、選んでいただける存在になる。そのためにもお客さまと深い関係を築き、様々な課題を解決できる金融人でありたいと願っています」。

※バイオガス発電…食品廃棄物や汚泥や家畜フン尿等の湿分の高い原料をメタン発酵によりバイオガスを発生させ、そのバイオガスを燃料に使用し発電する発電方式。バイオマス発電は木屑や燃えるゴミなどを燃焼する際の熱を利用して電気を起こす発電方式。